生成AI「Gemini」の長文要約を検証!ハルシネーションだけではない課題とは?

コンテンツ制作や情報収集の効率化を目指す中で、生成AI「Gemini」が注目を集めています。特に、長文を短時間で要約できる機能は、ライターやオウンドメディア運営者にとって魅力的な選択肢です。

しかし、AIによる要約には限界もあります。文脈の誤解やニュアンスの欠落、さらには事実とは異なる「ハルシネーション」の発生など、完全にAI任せにするのはリスクを伴います。

本記事では、Geminiの「長文要約」機能を実際に検証し、その強みと課題を解説します。また、AIを安全かつ効果的に活用するためのポイントや、人間の判断力・創造性が持つ重要性についても考察します。

AI時代において、精度の高いコンテンツを生み出すためのヒントを、ぜひ本記事で見つけてください。


Geminiとは

GeminiはGoogleが開発した生成AIで、文章作成や要約、情報検索など幅広い用途に対応しています。
Googleの情報検索技術と連携し、大量のデータから必要な情報を素早く収集・整理し、的確に要約できる点が特徴です。 そのため、特に「長文要約」に強いAIとして注目されています。

他の生成AIにも要約機能はありますが、Geminiは正確性と実用性の高さが評価され、コンテンツ制作者やライターの間で「長文要約に適したツール」として活用が進んでいます。
資料やウェブページなど膨大な情報の要点を素早く整理したい場面で、Geminiを活用するケースが増えています。

Geminiでできること

Geminiは以下のような多様な機能を備えており、コンテンツ作成やリサーチの効率化、プログラミング支援などに活用されています。

機能  
長文要約・校正 小説やPDF、YouTube動画の内容を要約し、主要ポイントを抽出
情報検索・収集 関連するウェブ検索やデータ収集を行い、迅速に情報を提示
画像認識・解析 写真や図表の内容を分析し、問題点や重要項目を抽出・説明
コード自動生成 指定された要件に基づき、コードの生成や修正を提案
音声入力・解析 音声をテキスト化し、要約や情報検索をサポート
画像生成 指定されたテーマに基づいてイメージを作成
Googleサービス連携 Googleドキュメントやスプレッドシートと連携し、データ入力や分析を支援

しかし、会議の議事録や業務レポートの要約を任せる際、「AIはどこまで信頼できるのか?」と疑問を抱く人も多いでしょう。

次章では、Geminiの長文要約を実際に検証し、その精度や課題について具体的に見ていきます。

Geminiを「長文要約」で使ってみた

Geminiの「長文要約」機能がどこまで正確なのか、実際に試してみました。今回は、膨大な物語構成を持つ『南総里見八犬伝』と、『リンカーンの英語演説』を題材に要約を依頼。

その結果、事実誤認や表現の不正確さなど、いくつかの課題が見えてきました。

Geminiに「南総里見八犬伝」の要約を依頼

プロンプト:江戸時代後期に曲亭馬琴によって著わされた長編小説『南総里見八犬伝』の要約を2000字程度でお願いします。

※以上Gemini使用(収録日:2024年11月)

Geminiによる要約には、人物設定やストーリーに多くの誤りが見られました。

【人物描写の誤り】

Geminiの要約 正しくは…
家臣の神余光弘 実際は滝田城主であり、義実の家臣ではない。
犬山道節: 長兄 八犬士自体が兄弟設定ではなく、「長兄」という表現は不適切。
浜路: 八犬士のまとめ役 浜路は八犬士ではなくヒロイン。
犬江新兵衛: 狡猾で冷酷 正しくは犬江親兵衛。冷酷ではなく、徳の高い「仁」の珠を持つ英雄的性格。
芳流閣: 才色兼備の美女 芳流閣は建物名であり、人物ではない。
村雨丸: 飄々とした性格 「村雨丸」は刀の名前であり、人物ではない。

【ストーリーの誤り】

Geminiの要約 正しくは…
八つの玉が犬の形になり、孫娘の胎内に宿る 玉(珠)は犬の形にはならない。孫娘の胎内に宿る描写はない。
八犬士は成長しながら戦い、友情を深める 個々の役割や成長の詳細が省略され、物語の深みが伝わらない。
里見家の再興のために戦う 戦うのは里見家のためだけではない。そもそもは各自の目的を果たそうとし、その結果出会って集結する。
八犬士は関東管領・滸我公方と戦う 「滸我公方」は誤りで、正しくは「古河公方」。
物語の最後に八犬士は仙人として余生を送る 仙人になったという確定的な描写はなく、暗示的な表現にとどまる。

加えて、Geminiの要約は最後に「物語のテーマ」と「作品の魅力」についても触れていますが、これらの内容は重複。その一方で、要約の本来の目的であるあらすじ部分はごくわずかしか含まれていませんでした。要約の役割は、物語の重要なポイントを正しく簡潔に伝えることです。不要な繰り返しを避け、要点を的確に整理する必要があります。

Geminiにリンカーンの演説の要約を依頼

プロンプト:Abraham Lincoln(エイブラハム・リンカーン)のgettysburg Address(ゲティスバーグ演説)の演説(英語)を日本語2000字程度に要約してください。

※以上Gemini使用(収録日:2024年11月)

Geminiは、依頼した要約に加え、演説の背景や日本語訳、演説の意義・影響までまとめました。しかし、各パートにおいて表現の不適切さや解釈の誤りが散見され、正確な要約としては不十分でした。

加えて、誤りを指摘すると「他にもさまざまな解釈がある」として問題を回避しようとする傾向が見られます。しかし、翻訳要約に求められるのは、客観的かつ正確な要約。解釈の幅を理由に誤りを正当化するのは適切ではありません。

このような精度の低さを踏まえると、「英文要約」としても信頼に値しないと言えるでしょう。特に、翻訳要約としての活用を考えている人にとっては、注意が必要です。

【「演説の日本語訳」パートの問題点】原文と異なる表現・訳の不適切さ

Geminiの要約 正しくは…
自由の精神によって懐胎され… 「懐胎され」という表現は文学的だが抽象的すぎる。英語原文「conceived in liberty」は「自由という理念のもとに構想された」とする方が分かりやすい。
すべての人間は平等に創造されたという自明の真理… 英語原文「all men are created equal〜」の訳を「自明の真理」とすると強調が強すぎる。「明白な真理」とする方が原文の「self-evident」に忠実。
その戦争の大激戦の最中にいます。 英語原文の「engaged in a great civil war」は戦争の規模(大きな内戦)を示すと同時に、その戦争が国家の存続を試すものである点を強調している。「大激戦」だと局地的な戦闘を指すように聞こえる。「国家の存続をかけた大きな内戦の最中にあります」が適切。
われわれがここに来たのは…戦場を共にするためです。 英語原文「we have come to dedicate a portion of that field」を「戦場を共にする」とすると意味がずれる。「この戦場の一部を追悼の地として捧げるためです」とする方が正確。
全く時宜にかなっており正義である。 英語原文「altogether fitting and proper」は「非常に適切かつ正当である」というニュアンス。「正義」は誇張表現。
世界は…われわれがここで言うことなどほとんど気に留めないでしょう。 「The world will little note, nor long remember what we say here」を「ほとんど気に留めない」とするのは、断定的すぎる。「世界は、われわれがここで言うことをあまり気に留めず、長く記憶に残すこともないでしょう」と柔らかく訳すのが適切。

【「演説の内容」パート】要約の解釈が不正確

Geminiの要約 正しくは…
「犠牲の意義」 ゲティスバーグの戦いが「自由と民主主義を守るためのもの」とされているが、原文では戦死者の献身による国家の再生が強調されている。
「ゲティスバーグの戦いで亡くなった兵士たちの犠牲が、この国を新たに再生するための崇高なものであった」とする方が原文に忠実。
「国民への呼びかけ」 「亡くなった兵士たちの犠牲を無駄にしない」とするだけでは不十分。生存者が「未完の仕事」を継承する使命がある点が重要。
「生存している国民に対し、亡くなった兵士たちの犠牲を無駄にせず、彼らが成し得なかった国家の使命を完遂するよう求めました」と具体性を加えると良い。
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Geminiの要約スキルの限界

Geminiは便利なツールである一方、長文の要約においては依然として限界があり、課題も存在します。主な問題点を以下にまとめました。

ハルシネーション

「ハルシネーション」とは、AIが誤った情報や存在しない事実を生成する現象です。Geminiでもこの問題が見られ、実録では登場人物や設定を誤って記述したり、元の文章にない情報を加える場合がありました。

こうした誤情報は、特に信頼性が求められる場面では致命的です。

文脈や意図の理解不足

長文や複雑な内容を要約する際、Geminiには文脈や筆者の意図を正確に捉える能力に限界があります。実録では、主題や核心部分を十分に掴めず、重要な内容が不完全または誤解されていました。

特に、背景知識や微妙なニュアンスが求められる場合、AIは本質を反映しきれないことがあります。

ニュアンスの喪失

要約の過程で、重要なニュアンスや細かい文脈が省略されることがあります。実際に、日本語訳では表現が不自然だったり、英語特有のニュアンスを直訳的に捉えて自然な日本語に変換できていない例がありました。

その結果、元の文章の意図が歪められることがあります。

要約の焦点が曖昧

Geminiの要約では、重要な部分が省略されたり、逆に不要な情報が過剰に含まれることがあります。例えば、「南総里見八犬伝」の要約では物語のテーマそのものを何度も言及され、重要な部分が曖昧になっていました。また、「リンカーンの演説」の要約では、全体像を捉えた説明が不足していました。

このような問題は、要約の精度や一貫性に影響を与え、読者が元の内容を正確に理解する妨げとなります。

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生成AIを利用する際の注意点

AIによる要約は、学校のレポート作成や情報収集、ビジネスでのデータ把握や議事録作成など、さまざまな場面で活躍していますが、利用時には注意が必要です。特に、複雑な情報や微妙なニュアンスの要約では、重要な情報が抜け落ちたり、誤った文脈で解釈されることがあります。

生成AIを使う際は、以下の点を意識し、要約結果を確認・補正することが重要です。

■AIの限界を理解する
AIの要約には限界があるため、その結果を鵜呑みにせず、必要に応じて補正作業を行うこと。

■情報のWチェック
要約の正確性を確認するため、信頼できるソースで再検証する。ファクトチェックツール(ファクトチェック・ナビやデータガンマなど)を活用すると精度が高まります。

※ファクトチェック・ナビ:各団体やメディアによるファクトチェック記事をまとめて確認できるツール
※データガンマ:生成された内容を信頼できる情報と照らし合わせ、自動的に検証するGoogleが開発したツール

人間の重要性

AIはコンテンツ作成を効率化し、スピードを高める力がありますが、最終的な価値を生み出すのは人間の創造力や判断力です。AIと人間が協力し、それぞれの強みを活かすことで、より豊かなコンテンツが生まれます。

コンテンツ制作において、最終的な方向性や価値を決めるのは人間の力であることを忘れずに進めることが大切です。

創造力やクリエイティビティ

AIは定型的な生成を得意としますが、人間は独自の視点や経験を活かして新しいアイデアを生み出します。特に、広告やブランドストーリーなど、ターゲット層の感情に訴えかけるコンテンツ作成には、人間の直感と経験が不可欠です。

また、AIには難しい芸術的表現や文化的背景の理解も、人間ならではの強みです。

判断力

AIはデータに基づいた客観的な情報を提供しますが、感情や文化的背景、社会的価値観を理解することはできません。そのため、敏感な問題や特定のターゲット層に配慮が必要な場面では、人間の判断力が不可欠です。

例えば、社会的影響を与えるコンテンツや企業の価値観を伝える際には、AIでは配慮しきれない微細なニュアンスが求められます。

まとめ

Geminiなどの生成AIは、限界を理解したうえで活用しないと、重大なミスや情報の欠落が生じる可能性があります。AIを盲信せず、常に精査する姿勢が重要です。

コンテンツの質を決定するのは、人間ならではの視点や創造力、判断力です。AIは補助的なツールとして活用し、人間の知恵と効率性を組み合わせることで、より質の高いコンテンツ作成が可能となります。

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