ChatGPTの登場は、AI技術の進化を象徴する大きな出来事でした。多くの人がその自然な対話能力に驚き、さまざまな分野での活用が期待されました。
特に、企業や学生にとっては、効率的なコンテンツ作成やアイデア生成における強力なツールとして評価されています。
初期の反響は非常にポジティブで、多くの企業や個人がChatGPTを活用し始めました。ブログ記事の執筆、マーケティングコンテンツの作成、さらにはカスタマーサポートの自動化など、さまざまな用途で活用が進んでいます。
一方で、AIが生成するコンテンツには「誤情報の生成(ハルシネーション)」や「バイアス」の問題が見受けられ、初期の驚きを超えて課題も浮上しています。
この記事では、ChatGPTの進化の過程とその限界について詳しく解説します。
最新のChatGPTがどのように進化したか、その進化にもかかわらず、まだ残っている課題とは何かを検証していきます。
人間だからこそできることを考察し、質の高いコンテンツを作成するためのヒントを得ましょう。
ChatGPTの進化
ChatGPTは、その初期リリース以来、驚異的な進化を遂げてきました。
ここでは、GPT-3.5、GPT-4.0、そして最新のChatGPT-4o(オムニ)の進化を比較し、それぞれの特徴とパフォーマンスの向上について解説します。
特徴 / モデル | GPT-3.5 | GPT-4.0 | ChatGPT-4o |
---|---|---|---|
リリース日 | 2022年 | 2023年 | 2024年5月 |
コンテキスト理解 | 向上 | より深い理解が可能 | テキスト、音声、画像、動画を同時に処理 |
安全性と倫理性 | 基本的なフィルタリング機能 | 人間のフィードバックを取り入れた安全性強化 | ・感情を理解する音声認識機能 ・リアルタイムの動画認識 |
応答速度 | 標準 | 高速化 | GPT-4.0の2倍の速度 |
マルチモーダル対応(※) | テキストのみ | テキストと画像 | テキスト、画像、音声、動画を同時処理 |
多言語対応 | 複数言語対応 | 強化 | 50以上の言語 |
参考:Open AI公式サイト
「GPT-3.5 Turbo fine-tuning and API updates」
「GPT-4 is OpenAI’s most advanced system, producing safer and more useful responses」
「Hello GPT-4o」
(※)マルチモーダルとは、複数の異なる形式のデータ(モード)を同時に処理する能力のこと
■GPT-3.5
GPT-3に比べてパラメータ数(性能に影響するモデルが学習するために使用する変数の数)が増加し、より高精度な応答が可能に。特に、テキスト生成の精度や一貫性が向上し、幅広いタスクへの対応能力を持ちます。
■GPT-4.0
GPT-3.5に比べてさらに性能が向上。82%の安全性向上と40%の正確な応答の増加。また、コンテキスト理解能力が強化され、より自然な会話が可能になりました。
■ChatGPT-4o
最新のChatGPT-4oは、さらに高速で多機能。テキスト、音声、画像、動画を同時に処理できるマルチモーダル対応が特徴で、50以上の言語をサポート。応答速度もGPT-4.0の2倍となり、リアルタイムの対話が可能です。
このように、ChatGPTは各バージョンごとに着実に進化し、多機能で高性能なツールへと成長しています。
ChatGPTの進化の限界
AIの進化は目覚ましいものがありますが、現時点でいくつかの限界があります。これらの制約を理解することで、潜在的なリスクを最小限に抑えることができます。
技術的な限界
■テキスト処理の上限
GPT-4では最大32,768トークンまでのテキストを扱えますが、それを超えると過去のデータを忘れてしまいます。
■データのバイアス
ChatGPTはトレーニングデータに含まれる潜在的なバイアスを引き継ぐ可能性があります。これにより、性別、人種、文化など特定のグループや意見に対して偏った応答を生成することがあります。
■リアルタイム情報の反映の難しさ
AIモデルをリアルタイムで更新するには多大な計算資源と時間が必要であり、最新の情報を反映するのは難しい状態です。
創造性の限界
AIは創造的なコンテンツを生成する能力に限界があります。
■オリジナリティと創造性の欠如
既存のデータに基づいて回答を生成するため、完全に新しいアイデアや創造的なコンテンツを生み出すことが難しいです。
■専門知識の不足
広範なトピックに対応できますが、特定の専門分野に関する深い理解が必要な場合には限界があります。
■ハルシネーション
AIが誤った情報や存在しない情報を生成する現象であり、信頼性や正確性に直接影響を与えます。
ChatGPT-4oを使って『源氏物語』の要約に挑戦
AIツールを使った要約機能は、企業や学生の間で非常に人気です。特に、じっくり原文を読む時間がない場合、短時間で重要なポイントを押さえることができるため、便利なツールとして重宝されています。
しかし、もしAIが出した要約が誤っていたり、適当な内容だった場合どうでしょうか?
その要約を信頼して提出することはできません。また、自分が誤った情報を記憶してしまう可能性もあります。
そこで今回は、ChatGPT-4oの能力をテストするため、誰もが知っている日本の古典『源氏物語』の要約を依頼しました。
『源氏物語』はその長さゆえに要約が求められる典型的な作品と言えます。また、内容が広く知られ、評価が定まっているため、要約の質を検証するのには最適でしょう。
プロンプトはシンプルに「『源氏物語』の要約を2000字程度でしてください」というものです。
結果は、以下のように多くの誤りを含んでいました。
- 「宮廷」という言葉は日本では一般的ではなく、通常は「宮中」が最もよく使われます。その他にも「朝廷」や「内裏」、「貴族社会」といった表現がよく用いられます。
- 「若紫」は登場人物の名前ではなく、巻の名前であり、正しくは「紫の上」。「紫の上」の少女時代を「若紫」と通称で呼ぶことがありますが、作中で「若紫」と記されることはなく、後世の呼称にすぎません。
「〜上」がつくのは正妻格ですが、あくまで彼女は嫡妻です。光源氏と結婚前は「紫の君」という呼称でした。 - 「彼の願望は時に歪みを見せます 」
紫の上に対する願望に「歪み」があるという解釈は一般的ではありません。10歳ほど年齢が離れた彼女を引き取って育てたことについて、現代では批判的な見方もありますが、当時の社会では珍しいことではありませんでした。そのため、願望が「歪み」を見せているとするのは適切ではないでしょう。 - 「後宮に仕える藤壺」
藤壺は後宮に仕えていません。中宮(正妻)です。 - 「光源氏は美貌と才能を武器に」
美貌と才能だけでなく、地位と身分が一番大きな要素です。 - 光源氏の明確な「裏切り」行為はありません。
- 「怨霊となって彼の人生に暗い影を落とします」
これは、光源氏に直接何かをしたわけではなく、周囲の女性に取り憑いています。
※以上ChatGPT-4o使用(収録日:2024年10月)
後半部分も精査していきましょう。
- 「正妻である紫の上」
紫の上は正妻ではなく嫡妻。正妻とされるのは、葵上と女三の宮です。 - 「次第に冷え込み」とありますが、光源氏の愛情は衰えず、紫の上が愛情があるゆえの心の変化を感じます。多くの女人が現れ、さらに高い身分の女三の宮が正妻として迎えられたことで、彼女は自分の立場に疑問を持ち始めます。
- 「息子の夕霧 」
光源氏の死後の宇治十帖では、夕霧はメインの登場人物ではありません。 - 「藤壺と源氏の兄の柏木との間に生まれた子」
柏木は頭中将の息子です。薫は柏木と女三の宮の間に生まれました。
このように、ChatGPTの回答には、歴史的背景やキャラクターに関する誤解が散見されました。
ChatGPTはリサーチや翻訳、メール文章の作成から記事のライティングまで幅広く活用されています。「要約」も活用事例の一つです。今回のような物語や小説、Web記事や書籍、会議の議事録や学術書の要約まで。重要ポイントの抽出や効率的な情報把握、時間の節約など幅広い目的で利用されています。
しかし、今回の検証実録を見てみると、どうでしょう?
ChatGPTが進化しても、細かい文化的なニュアンスや正確性には課題が残っていることが分かります。
人間のライティングの重要性
効率性を求めてAIをライティングに活用する人や企業は増えています。特に、コンテンツ制作のスピードを上げたり、コストを削減するために、ChatGPTを始めとする生成AIが広く利用されています。しかし、これまで見てきたように、ChatGPTを活用したコンテンツ制作にはリスクも伴います。誤情報の拡散やバイアスによるトラブル・炎上などの事例も報告されています。
これらのリスクを軽減し、コンテンツの品質を向上させるためには、人間のライティングの重要性を見直すことが必要です。
誤情報の修正
AIが生成するコンテンツには誤情報が含まれる可能性があります。AIのアウトプットを批判的に評価し、必要に応じて訂正や補完を行うプロセスが必要です。これにより、信頼性の高いコンテンツを提供することができます。
バイアスの排除
AIはトレーニングデータに基づいて学習するため、潜在的なバイアスを含むことがあります。人間の視点を通じてコンテンツを評価し、公平性を保つためにバイアスを排除することが重要です。これにより、公平で信頼性のあるコンテンツが生まれます。
創造性と感情の表現
AIはデータに基づいて応答を生成しますが、人間のライターは創造性や感情を込めた文章を作成することができます。読者に対してより深い共感や感動を与えられる人間のライティングは、単なる情報提供にとどまらず、読者との感情的なつながりを築けるのです。
ユーザーエクスペリエンスの向上
最終的なコンテンツの質を高めるためには、ユーザーエクスペリエンスを考慮することが重要です。人間のライターは、読者のニーズや期待に応じたコンテンツを作成し、読みやすさや理解しやすさを向上させることができます。読者ニーズに応じた、的確で魅力的なコンテンツを提供できるのは人間の力です。
AIはコンテンツ作成の効率化に大いに役立ちます。しかし、最終的な品質や感情的なつながりを保証するためには、依然として人間のライティング力が重要です。特に、誤情報やバイアスを修正する力、創造性や感情を反映させたライティングはAIに代替されません。
質の高いコンテンツを生み出すためには、人間のライティングの重要性を再認識することが大切です。